19世紀風景画家の筆頭に挙げられるコローは、その瞑想をさそうようなモチーフで、多くの人々に愛されてきました。ここに描かれているヴィルダヴレーは、パリ近郊の町で、当時はむしろ村と言った方がぴったりするような静かなところでした。ここにコローの父の家があったので、彼はよくここに滞在してこのあたりの風景を描いています。高い梢の風にそよぐ音が、画面から聞こえてくるような彼の得意とする樹葉の描写や、木の下陰の小径に洩れ落ちるやわらかな陽射しなど、画面全体のつくりだす巧みな明暗のコントラストとあいまって、美しい自然詩を聞くようです。しかし、右側に立つたくましい赤牛が、画面構成に重要なアクセントとなって、この絵を単なる詩的雰囲気に終わらせないでいます。