1881年の秋、ルノワールは思い立ってイタリアへの旅に出かけています。パリでの印象派の世界にとどまりきれぬ自分を感じていた頃のことです。この絵はそのようなときのものです。しかし、ここには私たちが実際に見たり、また写真で確かめたりしたときのような荘重なサンマルコ寺院としてではなく、ときあたかも夕陽に映えて光り輝く宝石のような印象としてとらえられています。この色との交響樂をかなでる豊かな感覚は、彼が少年の頃、陶器工場の絵付け職人として修行していた中に育まれたものといわれています。広場に点々としているのは、参詣者と彼らに寄り集まっている鳩の群れです。その人物や鳩がことさら形をなしていないのは、建物を生かすためだといいます。